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 ローマ、フィレンツェ、ヴェニスを12日間の急ぎ足で見て参りました。
観光名所やお勧めスポットなどは、美しい写真と共に多くのガイドブックで詳しい紹介を見ることができますから、ココで観光ガイド的な旅行記を展開することには、あまり意味を見出せません。
 たとえば、コロッセオの迫力を説明して、それを見たわたしの感想を伝えることよりも、駅前で剣士の衣装を付けたおじさんと一緒に写真を撮ってから、請求された金額が果たして妥当なものだったのかどうか、いつまでも悩んだというようなエピソードを中心に進めていくつもりです。         
                           01/01/16  

 

   

列車での移動(ローマ〜フィレンツェ)

 
さて、 2001年1月1日、フィレンツェへの移動日です。

 初めてのローマでの4日間を無事(知らない内に被害を受けていたのかもしれませんが...。)に消化したわたしたちにとって、旅行前から一番の問題と認識していた、列車移動の日です。
 団体行動は得意ではないものの、日程やホテルなどの条件が合うプランがあれば、パック旅行も選択の内からはずせないのは、なんといっても移動中のトランク運びを人任せにできるからなのですが...。でも、今回、ユーロスターのスムーズな利用の経験ゆえに強気になっていたわたしたちが懸念していたのは、重たいトランク以上にテルミニ駅という場所に乗り込まなくてはならないことでした。
 スリに置き引き、集団で攻めてくる物乞いの子供たち....。テルミニ駅とその周辺に注意するようにという記述がないガイド本を見つける方が難しいくらいに、そこは問題多発地帯、らしい。「ローマに行くんだよ。」と話して「テルミニ駅、気をつけなよ。」という言葉を何度聞かされたことでしょう。ローマに実際に行った人はもちろん、まだ言ってない相手からまで同じアドヴァイスを受けると、神経過敏にもなるというものです。

 前夜、20世紀最後の夜の喧噪が聞こえてくる(主に爆竹の音ですね。)ホテルの部屋で、わたしたちは荷物をすべてトランクにまとめる努力をしました。荷物の数が増えれば注意力も散漫になって被害にあいやすくくなるからと考える主人は機内持ち込み用のボストンまでトランクに押し込んで、身に付けた貴重品以外は荷物はトランクだけにしたかったようです。が、ボストンの中味はともかく、ボストンまでおさまるスペースはどちらのトランクにも残っていなくて、結局、貴重品以外はほとんど何も入っていないボストンをたすきがけにして、片手はボストン、片手はトランクから離さないようにしようということになりました。スマートの対局にあるようないでたちに抵抗はありましたけど、悪評高いテルミニ駅を無事に通り過ぎるまでは、美意識は棚上げです。
 当日の朝、タクシーの中でたすきがけにしたボストンをおなかの前に抱えたわたしたち...。片手はボストン、片手はトランク、の予定でしたが、タクシーを降りた目の前には、空港で見かけるようなカートが用意されているではありませんか。(下、イメージ)
カートは駅の構内はもちろん、ホームへの出入りも自由
で、列車の乗り口の際で荷物を下ろすと、スタッフがカートだけを回収していってくれました。ボストンは身体からはずしてトランクの上に置き、取ってをまとめて握りしめてはいましたが、 前夜の緊張感もどこへやら、トランクの上から太い鎖をかけてダイヤル式の鍵までぶら下げている日本人のカップルを見つけて、「逆に目立ち過ぎて、標的にされちゃいそうだよね。」などと思ってしまいました。

 一等車両の席は通路を挟んで1列と2列でこれがテーブルを挟んで向かい合っていました。わたしたちの席は、いわゆる4人がけの通路側に向かい合う形でしたが、窓際に誰も来ないので、隣り合って座りました。
 トランクはテーブルが邪魔になって座席のほうには入れられず、通路に置きました。比較的広めの通路は、トランクを置いてもさほどの迷惑はかからないかなと...。ところが、列車が動き出してしばらくすると、女性スタッフが「あのね、ココに置かれるとワゴンが通れなくて困るの。トランクは向こう、デッキに置く場所があるから、そっちに持って行ってね。オーケイ?」 と言うのですね。ちなみに彼女の言葉の内、「オーケイ?」だけがカタカナっぽい英語で、あとの部分はわたしたちにとっては単なる音でしかないイタリア語です。が、表情と身振りで、言わんとしていることどころか、結構細かいニュアンスまで伝わってきました。
 仕方なく主人がふたつのトランクをデッキにあるという荷物置き場(わたしたちが乗車した方のデッキにはなかったので、気が付きませんでした。)まで押して行きましたが、帰ってきません。どうしたのかと首を延ばすと、ふたつのトランクを前に、デッキの壁にもたれ立っている主人が見えました。見張っているつもりだと思いました。ここはあきらめて、というか、割り切って戻ってきたらと伝えたいと思っても、貴重品の入ったボストンふたつを置いて席を立つわけにもいかず、ボストンを持って呼びに行くのも躊躇していると、さきほどのスタッフが同僚とワゴンを押して現れました。
 飲み物とお菓子のサービスでした。彼女は車両の先、デッキに主人の姿を認めると「ど〜して彼は戻ってこないの?あそこで、何をしてるの?」とわたしに尋ねました。理解できない言葉とよくわかる身振りで....。
 「お国の治安に不安があって、見張ってる。」と答える訳にはいかないし、また、会話を成立させる術のないわたしは首をかしげてみせるしかありませんでした。
 すると、彼女はワゴンサービスを同僚に任せて、元気のいい足取りでデッキに向かって行きました。

 すぐに主人は連れ戻されて来ました。
 聞いてみると、デッキの荷物置き場は既に一杯で、どうしたものかと悩んでいたそうです。ワゴンサービスが終わるのを待って、また、通路に戻すしかないかなと...。彼女は満杯の荷物置き場を見ると、「こんなことは珍しいのよ。」とか言いながら、わたしたちのトランクを荷物置き場の近くに寄せるだけで問題解決にしちゃったそうです。振動でトランクが動くといけないので、主人は、立てていたトランクを横にしたそうですが、相手の理解力に関係なく話し掛ける彼女の言葉の中で、ノープロブレムだけが聞き取れたと言っていました。あとは、やはり、豊かな表情と身振りから言葉以上の言葉が伝わったということです。
 何かの本にイタリア人は身振りだけで意志を伝える特技(?)を持っていると書いてありましたけど、なるほど、と感心させられる経験でした。

 フィレンツェに到着したのは、13時05分。終点ではないので、ホームでは人が待っていました。
 先に降りた主人が態勢を立て直す前に、その中のひとりが、わたしがトランクを下ろすのをサポ−トしてくれました。
初めての街で、最初に口にしたその国の言葉は「グラッツィエ」。さい先のいいスタートです。

 余談ですが、特に注意が必要といわれるテルミニ駅のスリや置き引きは、いたのかもしれませんが(被害に合わないと分かりません。)噂に聞く物乞いの子供たちは、ついに見かけませんでした。主人は「正月休みだったんだろう。」ということで、納得していますが....どんなものでしょ?

                                          01/05/17 

 

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