リッツカールトン大阪
 それでも感動はある?
        ホスピタリティ転じてサービスへ

初めての利用は、2005年前後だったでしょうか。
 
 アルファ・リゾート・トマムのレストラン事情が悪化の一途で、そろそろ覚悟を決めなくちゃと意識しだした頃でした。シェフがいなくなり、スタッフがいなくなり、レストランがクローズとなると、リクエストすればなんとかなるという話ではなくなるわけで、天ぷらの専門店、鉄板焼き店をさがさなくちゃ、北京ダック、フカヒレの姿煮、フォアグラのポアレをリクエストしやすいところは...と見回して、1箇所で全てクリアしそうな期待が持てたのが近くにあったリッツ・カールトンだったんですよね。
 お昼どきに何度かレストランの利用をして、いい感じだったので、じゃ、夜に....ということになって、宿泊の予約をしたのが、2003年の春。
 単身赴任中の主人が免許証の更新で週末に帰宅、誕生日だし、夕食後に電車で自宅まで戻るのも億劫なので、泊まってみようという判断で、宿泊、レストランの予約も料理のリクエストも電話で行いました。



 フォアグラのポアレは柑橘系のソースで、スープは根菜素材の軽めのティストで....とあれこれ希望をつたえたのち、オリジナルのメニューが考案され、打診もありました。宿泊、夕食利用の履歴がない客に対しても、自然な対応だったと思います。で、やり取りの最中に、ところで(今回の利用は)何か記念日か、特別な意味がある食事かなどとたずねられ、主人の誕生日なので....と応じたところ、花やケーキの用意をどうするかと聞かれましたっけ。フレンチコースのあとに追加でケーキを食べたいと思う年齢でもないし、花も..もちかえるのが...というより、数駅のロケーションにあるホテルに宿泊する口実が誕生日だしというわけで、プチ贅沢な食事や宿泊が『お祝い』の手段ではなくそれ自体が目的という位置付けでは、花もケーキも必須アイテムではありませんでしたから、不要と申し伝えました。

 ただ、宿泊時、主人の誕生日だというデータは活かされたようで、客室は広めのコーナーツインに案内され、テーブルにはチョコレートとパッピー・バースディのメッセージカードが置かれてました。フロントデスク、ベルパーゾン、レストランスタッフも『誕生日利用』を周知、この歳になって、知らない人からこんなに“おめでとう”を言われるとは...と、主人も想定外で、嬉しさも十分だった(はず)んですけど、十分すぎて、そのうちに、あ、もうそんなに言っていただかなくてけっこうなので....の、気分もチラリ...。
 客室のグレードアップやチョコレートのサービスは 純粋にラッキー!という感想でしたが、夕食時のデザートが主人のほうだけHAPPY BIRSDAYアレンジになっていて、ろうそくまで付いてきて(促されて炎を吹き消しました)テーブル担当以外のスタッフも数人あつまってきて、おめでとうございます!(パチパチ)となると、気恥ずかしさの方が勝ったりもして....。
  パブリックな空間でプライベートな事情をオープンにすることには、それまでにもラウンジやランチタイムの中華レストランでハッピーバースディが歌われる場に居合わせることもよくある時代になってましたが、そういうことをしたいなら個室を利用すればいいのにという気分になることもあったので、自分たちが当事者になるのは本位ではないというのが正直な気持ちでした。
 いいサービスですし、当然高評価にも繋がることは理解できましたが、一方で、2度目からは同レベルの感動はないだろうなとも思いました。 誕生日対応の特別なサービスの提供があることが前提になれば、部屋にチョコレートが置かれていても、サプライズではなくなります。 あって、当たり前、そして、これは実体験ですが、前よりチョコレートの数がへったりすると、サーブスの低下を感じちゃったりするわけです。


 この種のサービスは受け手に期待させる余地を与えた時点で褪せてしまうリスクをはらんでいますよね。 提供があって当たり前、期待値を下回ればむしろ不満が残る....。

 初利用のゲストが到着した時にカバンのネームタグを見たドアマンがゲスト名前を確認、ベルパーソンやフロントデスクにもつたえられ、名乗る前に名前を呼ばれて出迎えられたことにベストが驚き、感激したとか、食事中に枕の素材が**だったりいのにと話をした日の夜に希望の素材の枕に取り替えられていた (レストランスタッフが会話を耳にして対応)とか、リッツカールトンの『察して、積極対応』の具体例は、活字でも語られています。知人の価値観では盗み聞きじゃん!ということになるようですが、ゲストの様子に気配を欠かさずにいれば、聞こえてくる話もあると....。
 注意力、観察力、判断力、記憶力を駆使して、ゲストの『思い』を察するホスピタリティーは、優れたサービスを超えて、インパクトと感激を産むと、わたしはと思っています。
 
 でも...ゲストの申告によって、行われる『特別なサービス』は、 それを期待する自分の気持ちの浅ましさもイヤで、わたしはこれ以降、宿泊もレストランも、利用『目的』に付いては言及を避けて、予約を入れるようになりました。
 それでも、最初の利用のデータはリセットされることなく、誕生日月に宿泊すると、「今月はお誕生日だとうかがって...。」と、滞在中のどこかで、お祝いの気持ちの提供がありました。
 ケーキだったり、朝食時のフルーツプレート(下イメージ)だったり、 場所も時も内容も様々だったので、意外性はキープされて、しばらくは素直に感激もし、気遣いに関感心もして過ごしたのですけど...繰り返されるとそれも、『何かしらのサプライズ』があることが当たり前になって....そして、チョコレートがの数が少なくたった年に、もう心が揺さぶられなくなっていることに気づかされました。
(右イメージは2回目と3回目に客室に用意されていたチョコレート。初回のチョコレートイメージは撮りませんでしたが、ボリュームは2回目とほぼ変わらず、ただし全てチョコレートだったと記憶。)

 別の月の利用では...例えば私の誕生日月とか、結婚記念日とかにはサプライズはありません。気づかないうちにスタッフが情報を取得して、客室のバラの花とメッセージカードが!などということもありません。こちらから言わなくちゃ、目的を察してもらうことは難しいらしい、それはそれでいいんですが、隣のテーブルで、おめでとうございますと言われてケーキをもらっている人は自己申告したのかな...と思って見てしまう状況が、ちょっとイヤだなと感じ始めた頃、外国人客の増加で、予約がしにくくなったんですね。
 電話がつながりにくい、利用予定の日に空室が無い....夕食後、あるいは観劇のあと、日々と少し異なる時間の余韻を楽しむには、電車で即帰宅よりは、ホテルで一泊...という類の利用でしたから、何がなんでも!という話ではないものの、電話での問い合わせが面倒になって、ネット予約、検索に切り替えたところ、プルダウンで表示される中から 利用の用途選択する手順があることに驚きました。

 オンラインで....あじけない。
 スタッフはゲストではなくPCをみれば いいわけで、ゲストはスタッフが利用の用途を把握していることを知っている....これじゃ、むしろ誕生日プラン、旧友との再会プラン等、用途に応じた特別サービスを明記した宿泊プランを選ばせてくれた方がスッキリすると思ってしまいました。
 ホスピタリティに期待するより、望むサービスを選ぶという構図ですね、
 
 思いがけない感動とは疎遠になっても、満足指数を高めることはできるでしょうから...前と比べてチョコが減ったなどという、せっかくの『おもてなし』に感動できない自分の気持ちの浅ましさに向き合うよりもマシかもしれませんしね。
 用途の確認は、昨今よく遭遇します。
 サービス向上のための、情報収集なのでしょうけど、初利用時が感動のピークという落とし穴に、つい警戒してしまうのは、自身の物欲の問題と悟るべきでしょうか?
 利用を重ねるうち、積む情報と理解によって、居心地がよくなっていく...そんな手間と時間の先に褪せない感動が続く気がするのですけど....。サービスに頑張りがすぎて、ホスピタリティーの出番がなくならなければいいのですけどね。

 ちなみに、リッツカールトン大阪の宿泊予約サイトを久々に操作したところ、プルダウン選択の用途確認は見当たらなくなっていました。(要望書き込み欄はある。)レストランの予約の際の用途選択は、健在でした。
 

                                    18/08/13 

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