画面のレイアウトが乱れる方へ


紅茶、雑談、雑知識 スペシャルレポート


2003年1月、マリアージュ・フレールのパリ本店とフォーブル・サントノーレー通りの支店に立ち寄って来ました。
 日本との価格差に舞い上がって“購入”のみで手一杯だった4年前よりは、気分にも余裕ができて、今回は店内の様子などにも目を向けて来ました。
  イメージはスタッフの了解を得て撮ったものですが、個人を特定できるカットのUPは自重しています。美形のギャルソン
を紹介できないのは残念ですが、一見の価値は顔よりも手許、ということでマリアージュ流「お茶のお手前」を御覧ください。
                    03/01/08 

  
 
    


 マレ地区にある本店の外観です。
 石の景観の中で、少し異質な木のしつらえは、(内装も含めて)創業当時のままということですが、97年にオープンした支店にも共通しています。遠目には、控えめに掲げられたお馴染みのロゴマークの丸い看板と、この木の色合いが頼りになります。
 本店は店内奥と階上にもサロンスペースがある様子ですが、ショップスペースは大きくはありません。午前中の早い内に訪れた4年前と違って、黄昏れ時のこの日は店内はごった返していました。サロンの空きを待って並ぶ列と、お茶を(計り売りで)買う為に並ぶ列と、キャッシャーで精算をする為に並ぶ列が交錯している状態で....“サロン”のイメージはまたもや粉々に崩れ去りました。
 またもやというのは、デメルアンジェリーナ等でも同じ経験をしているからですが.....でも、お茶は我が家にとっての必需品! 今回は混雑に音をあげてUターンするわけにはまいりません。
 まずサロンの待ち列に並びました。ショップで対応しているスタッフはふたり、キャッシャーはひとり....同じ待つなら、とりあえずエネルギーの補充をということですね。
 わたしがオーダーしたのはお気に入りの春摘み、ブルームフィールド。(主人はピュッタボン)自宅と、日本のマリアージュとの違いを確認したかったのですけど....予想以上の差に驚かされました。本店まで出向いて、こう言ってはなんですが、良く馴染んだ我が家の味が1番でした。
 日本のサロンと比べると、香りはしっかり、味は控えめの仕上がりが印象的で、渋みは苦手なわたしでも若干の物足りなさを感じる程、「まろやか」でした。

 左のイメージはサロン内のカウンター正面です。
 スタッフは100グラム入りの缶が500種ほど並ぶ棚を背にして注文が入ったお茶を入れていましたが、なにぶんテーブルについてからも雰囲気は慌ただしく雑然とした有り様で、本店では、わたしはあまり落ち着くことができませんでした。
 テーブルのサイズは日本のサロンと同じ、ただ...配置の窮屈さは日本を凌ぐと思えるくらいで、手前のゲストが立ち上がらなくては奥への通路は閉ざされるような狭さをイメージして下さい。もっともこれは腰の高さとのかねあいがあるようで....細身で長身のスタッフはそれなりに動けるようでした。お尻がぶつかるわたしはいうまでもなく、ふくよかなおばさまやゆったりとした服装のゲストにとっては問題の多いレイアウトでした。
 1時間少々経ってから席を立ちましたが......どうもひと品忘れられたような気がしています。ただ、様子を見てると注文にしろ精算にしろ忙しいそうなスタッフの対応が遅いので、「も、いっか。」という気分になってしましました。
 ショップの方は、その間に少しマシな状況になっていて、グチャグチャだった列も1列に整えられていました。いわゆるフォーク並びというやつで、それぞれのスタッフの前に並ぶのではなく、列の先頭から順番に空いたスタッフのところに進み出るというわけですね。(スタッフがひとり増えた時にその近くにいたゲストが買い物をしようとしたところ、わたしの前にいた女性が「あなたの順番ではありません。」と言って注意してくれたので、わたしも、横入りの被害から免れました。)
 購入したのは春摘みを中心にしたダージリンばかりです。こちらの欲しいものは決まっていて、スタッフに品番と名前で伝えるのですが、袋につめる前に缶の口をこちらに向けて茶葉を見せてくれるので、相当に時間を要しました。日本よりもカウンターが高く、伸び上がり気味のわたしが気になったのは、袋詰めの度に回りにこぼれ落ちる茶葉の山...。不器用なのか大胆なのか、わたしを担当してくれたスタッフは、春摘みダージリンのブレンドをゆうに100グラム以上はつくっていたと思います。(処分するなら、それも頂戴と言いたかったです。)
 ところで、茶葉をボロボロとこぼしながら袋詰めしてくれたスタッフに、日本のマリアージュの、緑茶ベースのお茶の価格はパリと比べてどうなのかと、わたしは聞かれました。日本で買う方が安いのか?というのですね。緑茶は比較したことがないので、視角でした。
  ただ、レシピにのっとってそれを日本で作っているというのならともかく、パリを経由して来る限り、たとえ緑茶でも、マリアージュブランドはパリの方が安いはずだと答えると、緑茶のフレーバードティーを100グラムプレゼントしてくれました。言ってみるものですね。
 ちなみに、わたしの判断は間違ってはいなくて、いただいた茶葉はパリでは5.6ユーロ、マリアージュ・フレール・ジャポンでは1900円でした。

 翌日、わたしたちは97年にオープンしたという支店に向かいました。
 予定外の行動で、本来は右にまがって別の店を目指すつもりだったところを(ついでだから)ちょっと見ておこうということで道を左に折れた結果、目的の店は遠のいてしまいましたが....支店(右イメージ)は寄り道をする価値がありました。

 ショップと完全にわけられた階下のサロンは程よい混み具合で、 本店よりは幾分スペースにも余裕がありました。
(同じ給料ならこっちの店で働きたいというのが主人の感想。同じお値段ならこっちの店でお茶にしたいというのが、わたし。)
 1番の収穫は、カウンター近くの席を選んだお陰で、お茶を入れるスタッフの手許をチェックできたことでしょうか。マリアージュ・フレールのお茶の本に記載されている、ティーフィルターを使ったお茶の入れ方によると、十分に温めたポットにセットしたフィルターに茶葉を入れた後、湯気の効果で茶葉を数瞬蒸らすことと、抽出後は茶葉は取り除き、お茶の味を均一に保つことなどがポイントとされていますが.....店のスタッフの手順は異なるものでした。
 左以下の3枚のイメージは、あまりの興味深さに耐えられなくなって、支払いを済ませた後に撮らせてもらったものですが、キャッシャー担当のスタッフは「どうぞ、どうぞ。」というノリでしたけど、撮られる当人には戸惑いがあったようです。サービス精神を発揮して動作を止めてはくれませんでした。
 隠し撮りではないのですが....アングルの悪さとピントの甘さは、わたしの焦りの結果です。(だって...あっという間なの。)

 カウンターテーブルは簀の子仕様で、湯気がもくもくと立ち上がる熱湯が出る蛇口は、レバーで水の勢いの調節ができるようでした。
 茶葉は茶さじを使わず、缶から直接トントンとフィルターに...。目分量も経験のわざとも言えそうですが、かなり大量に使っていました。で、少しくらい溢れることなど気にせずにお湯を注いだ後が、上のイメージの所作です。
 即座にポットの中味をカップに移し替えたかと思うと、(カップ一杯分を)高い位置から再びポットにバシャ!と戻します(右イメージ)。これを、素早い動作で2度3度と繰り返してから、最後にまた熱湯をジャッと足して(右下、イメージ)でき上がりなんですね。驚きました。
 3分間待つのだぞ、という...いわゆる“蒸らし”の行程をここでは見ることができませんでした。
 茶葉を一瞬も落ち着かせることなく、刺激し続けて、手早く仕上げるという感じです。その短い間にもポットにも熱湯をかけ回すので、カウンターテーブルは文字通りビチャビチャです。環境が整わない家庭での実践は難しいですね。“お湯びたし”の“お手前”から中国茶を連想してしまうのは、わたしだけでしょうか?
 お茶のオーダーはちゃんとばらつくようで...わたしが見ていた間だけでも後ろの棚の缶はまんべんなく使われていましたが、どの茶葉でも入れ方に際立った変化はありませんでした。
 
  フランスの紅茶としては、マリアージュよりも(日本では)ポピュラーなフォションエディアールでは、缶の側面にお馴染みの英国流の入れ方が記載されてますが、マリアージュには(缶や袋)入れ方のアドヴァイスはいっさい明記されていないんですね。
 英国流に対してフランス流という言い方を拙宅でもしていますけど、誤解を避ける為にはマリアージュ流と言うべきかもしれません。フィルターを使っての一見乱暴にも見えるこの入れ方が、パリにあるマリアージュの3つのサロン以外で実践されているとは思えなくて、出合いから10年が過ぎた今、またあらためて、この店の特異性を見た気分でした。

 もっとも、世界中で唯一、マリアージュの国外直営店となるマリアージュ・フレール・ジャポンの各サロン(といっても、確認できたのは大阪と京都と神戸店で、銀座本店でのの記憶はありません。)では、もう少し穏やかな入れ方をしていて、数分の抽出時間をとっているようです。ポットとカップをお湯(茶葉に浸ってますから、一応お茶、でしょうか...。)が素早く行ったり来たりもありません。(補足、参照)
 成分が抽出されやすい日本の水では、茶葉に、パリ店で実践されているほどの極端な刺激を与える必要がないということでしょうか。

 フランスの水質も本来は茶葉に適したそれではありませんよね。水の条件が似かよったイギリスでは、水質にあわせて茶葉は淘汰され、黒っぽい水色と渋みの少なさが指摘されるお茶は、ミルクを加えられておいしい飲み物としての地位を築いたことを考えると、マリアージュで、この種の“調整”がおこなわれることなく、その本来の風味を楽しむという点に価値を見い出された数百種以上の茶葉が、世紀を越えて取り扱われ続けている事実は「凄い」のひと言です。

 飲み方ではなく入れ方をアレンジして確立したとも言えそうなマリアージュ流で、日本に伝えられたのは“ティーフィルター”という小道具でしたけど、パリのサロン流に“短時間、強制抽出”を日本の水で行なったら、いつものお茶は、どんな変化を見せてくれるのか、興味を覚えます。

 余談ながら97年にオープンのこの支店のお手洗いの扉は、よくもまあ...と感心するほどクラシックな木製で、服飾美術館でなら展示されていそうな衣装をまとった、中国人とおぼしき男女の姿が描かれていました。
 パリのマリアージュで、人は東方趣味を刺激されながら、エキゾチックなお茶の世界に浸るのかもしれませんね。

                                      03/01/10 
補足
 2003年1月11日、マリアージュ・フレール・ジャポン京都店に寄ってきました。
 パリと同じ雰囲気に仕上げられた店内ながら空気は相当に落ち着いた感じの京都店でも、スタッフはゲストから見えるカウンターの中に立ってお茶を入れていますが、所作はゆったりめでした。(同じお給料なら、パリよりも日本の方がラクかもしれません。)
 茶葉はきちんとドザールですくって、一定の量をポットにセットしたフィルターの中へ...。お湯を注いだ後はポットに蓋をして、数分の抽出時間を置いているのが確認できました。(その間、ホットには熱湯をかけ続けていましたから、回りがビチャビチャになるのは日本でも同じですね)パリとはやっぱり違うんだなあと思っていたら、困ったことに....つい目についてしまいました。
 ポットからカップにお茶を注いで、再びポットに戻すことを、なんと、やってるんですね。(いままで気が付かなかった...。)パリほど派手な動作でもないし、バシャッと音が聞こえそうな勢いもなく、おまけに回数も一定ではないので、茶葉の種類によって入れ方をかえているのかしらとも考えましたが.....同じ動作とはいえ、パリのそれとは印象が違うんですね。で、(言葉が通じるので)直接尋ねました。

 最後にお茶をカップに注いでから戻すのは、水色か何かを確認しているのですか?...と。
 1番の目的はポット内のお茶の均一化だそうです。茶葉が入ったフィルターの回りはどうしてもお茶が濃くなりがちだということで、お茶を混ぜ合わせているのだとか...。英国式でいくと、茶さじで軽くポットの中をかき混ぜる、という、仕上げの行程にあたるようですね。
 念のために付け加えると、京都店のスタッフはわたしが目撃した、パリの店での入れ方を支持しませんでした。 パリのスタッフはお湯を注いだ直後から、仕上げの段階にスキップしてるということかしら?(冗談です。水質の違いによる調整と思って、納得してしまいましょう。)

                                      03/01/11