ザルツブルグのアイスコ-ヒ-
          
                  オ-ストリア ザルツブルク

ウィ-ンから、ザルツブルグに1泊2日の日程で足をのばした。

「ウィ-ン8日間フリ-スティ」というパックツァ-に参加中のことで、初体験の(ミニ)個人旅行であった。

  トランク等の荷物はウィ-ンのホテルの部屋に置いて、1泊分の着替えをバッグに詰めて出発した。

 事前に予約をしていたホテル.エステライシャ-ホ-フ(下のイメージ。旗の立っている白っぽく見える建物)はザルツァッハ川の岸辺に薄いピンク色の優美な外観を誇っていた。感激のあまりバスル-ムの写真まで撮った広いゲストル-ムの、その大きな窓の先に広がる景色のハイライトは、対岸の丘の上にたたずむザルツブルグ城だ。

 わたしたちに「ホテル選びは人任せにできない!」という思いを強くさせた、記念すべきホテル! 今なら、ハンドバッグひとつの超軽装だったとしても、このホテルにはタクシ-で乗り付けたい! が、当時は、見栄も初級だった。駅からは、それ程遠い距離ではない。キャリ-に括り付けた バッグを引いて、わたしたちは歩いて到着した。(ドアマンも、おそらく驚いたことだろう 。)

   

 さて、市内観光に出かける前に、夕食のことを考えなくては!
 ホテルのコンセルジュ(..と、おぼしきおじさん)に近くにお勧めのレストランはないかと尋ねたところ、「それなら、」と、彼は誇らし気にホテルのメインダイニングを推薦した。そりゃ、そうだ。
 だが、主人のス-ツはウィ-ンのホテルに置いてきた。(ジャッケトは運んできていた。)状況を伝えると、「ジャケットで十分!何も問題はない!」と、彼。(ホントかしら?)
 「御満足いただけますよ!シェフの自慢の名物をぜひ御賞味いただきたきたい!勿論、サ-ビスにも自信があります。雰囲気も最高!
(だから、躊躇しちゃうのョ。)
 それでも、いつのまにやら、禁煙席、大人2名、19時30分のテ-ブル予約は完了してしまった。


 「また、量が多いかもね。」
 わたしは、前夜のウィ-ンのホテルでの食事を思い起こして言った。
 「ヨシ! 昼もオヤツも抜いて、がんばるぞ!」
 主人は、臨戦体制に入った。

 が、しかし、その夜、二人とも前菜で腹八分に黄色信号が点滅した。メインに主人はボイルドビ-フを、わたしはウィンナ-シュニッテルをオ-ダ-していた。いずれも「名物料理」で、「ボイルなら、カロリ-も多少はすくないだろう。」とか「肉の厚みが薄いのが、頼り。」等、それなりに考えてのことだったが甘かった。数センチの厚みがあるボイルドビ-フの横には、お椀一杯よりも多そうな、ホウレン草(の味がする)ペ-ストが! 厚みはなくても皿を覆い尽くすばかりのシュニッテル! 4分の1、せめて3分の1の大きさならば どれほどかおいしくいただけたことか.....。
 残すことには抵抗はあったが、無謀な挑戦をするには、二人とも若くはなかった。ウェイタ-を呼んで、味には満足したこと、でも、自分達には多すぎて食べ切ることができないことを伝えた。彼はいたってスム-ズに事態を把握ようだった。
 「日本の方なら、そうでしょう。気になさることはありません。
 彼は、胃袋の大きさの違いに理解を表して、そして、言った。
 「デザ-トは、いかがいたしましょうか?

 気持ちの上で、デザ-トは欠かせなかった。甘いものは別腹というし、みっつ向こうのテ-ブルの4人が食べているメレンゲのような物はとてもおいしそうに見えた。ただ、その物がのっているオ-バル型の容器は日本のデパ-トの惣菜売り場で、量り売りのサラダなどを入れている器と同じか、あるいは、それ以上の大きさだった。4人で食べてはいるけれど、内二人は別にもデザ-トらしきものをかかえているので、巨大な容器に入った白いデザ-トが4人分 だと思うのは、危うい。もっとも、それの4分の1でもわたしには無理だ。
 「アレを、少しだけ食べてみたい。
 わたしは、「少し」を強調した。(つもり)
 黒い正装で決めた体格の良いウェイタ-は親指と人さし指で3センチ程の隙間を作って見せて、ニッコリ笑った。
 「 スペシャルスモ-ルサイズを御用意しましょう!
 「感謝。
 「スペシャルスモ-ルサイズ、です。御安心を。さて、御主人は何がお好みでしょう?
 お好みはいっぱいあったけれど、主人はこの時、別腹までも使ってしまったという状態だった。
 「コ-ヒ-しか飲めない。」と彼は言った。
 「では、奥様の(デザ-ト)をほんの少し召し上がってみては? 味見程度に少しだけ、おいしいですよ。お皿を二人分御用意しましょう。
 親切な提案をわたしたちは素直に受け入れた。その時、主人が日本語で一言つぶやいた。
 「(ホットより)アイスコ-ヒ-の方がいいんだけどな。」

 実は、パリの空港でアイスコ-ヒ-が欲しくなった時、結局は冷たいコ-ラか暖かいコ-ヒ-かの選択しかできなかった経験をしたばかりだった。主人のつぶやきは、アイスコ-ヒ-は無いという前提の上のものだった。が、面倒見のいいウェイタ-は、主人の日本語にも反応した。
 「アイスコ-ヒ-がお好きですか?
 「ほんとはアイスコ-ヒ-がいい....あれば...
 「ありますとも!お持ちしますか?
 「アイスコ-ヒ-なら、欲しい。
 ウェイタ-は交渉成立に、にこやかに頷いて、一旦、わたしたちのテ-ブルから離れた。

  少したって、彼が押してきたワゴンの上にあったのは、それでマカロニグラタンを作ったら4〜6人分はできそうな、スペシャルスモ-ルサイズとスタッフか言うところのの器に入った焼き立てのメレンゲと、たっぷりのコ-ヒ-アイスクリ-ムを生クリ-ムで 飾り上げたパフェだった。
 彼は、まず、メレンゲの3分の1くらいをふたつの皿に取り分けると、その横に甘いクリ-ムを添えてわたしたちの前に置いた。皿の余白もなくなりそうな量は、スペシャルスモールサイズの6分の1程度...。そのボリュームに絶句するわたしたちの前に、追い討ちをかけるように差し出されたのが、わたしたちにとってはスペシャルラ-ジサイズのパフェだった。
 「すごい」主人は日本語で驚きの声をあげた。
 「アイスになったコ-ヒ-だ。」

 ただ、このアイスコ-ヒ-は口当たりが好い上に、適度なほろ苦さもあって、この状況では理想的なデザ-ト となった。残りの3分の2のメレンゲをわたしたちはおかわりをすることができなかったが、主人はどうしたわけか、コーヒ-アイスクリームパフェを残さず平らげた。
 アイスクリ-ムには別腹以外の別腹があるらしかった。
                              
                                    改稿日 01/10/11 

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