200ドルのチップ!
       
           ニュ-ジ-ランド マウントクック

義母と一緒にマウントクックの遊覧飛行を楽しんだ。

     

 ツァ-のタイトルになっていた「クライストチャ-チの花祭り」を堪能して、オプショナルツァ-でミルフォ-ドサウンドを訪れ、南島とは今日でお別れという日だった。好天に恵まれたその日、テカポ湖の碧さと澄んだ景観の雄大さ(上、イメージ)に、幾度も感嘆の声をあげながら、わたしたちはマウントクックの飛行場に向かった。そこから、北島のロトルアに飛ぶのである。
 数日間、わたしたちを運んでくれたバスの運転手のAさんともお別れだった。

 わたしたちは、平均年令がかなり高めの12名のグル-プだった。
 60才以上を対象とした、連泊が基本のゆっくりとしたスケジュ-ルのツァ-である。(同行者は60才以下でも可。)義母と母と主人の叔母が「お花を見てくる。」と聞いた時、わたしは自分もメンバ-にカウントされるとは考えていなかった。「一緒に行って!」と言われた時には「...世代が....。」と思ったものの、ビジネスクラスに乗せてくれると言うので、結局引きずられたのだ 。

 「飛行機の出発時間までには、少し待ち時間があるので、」
 添乗員のKさんが言った。
 「希望があれば、マウントクックの遊覧飛行の体験ができますが、」
 「希望者はいますか?」というKさんの言葉に義母が手を上げたので、わたしもつられた。母と叔母は5、6人しか乗れないような飛行機は恐いと言っていやがった。12人の内、遊覧飛行を希望したのは、義母とわたしと、最年長のWさんと、その娘さんの4人だった。
 他の人達がマウントクックヴィレッジで 休憩している間に、遊覧飛行組み4人と母と叔母はKさんに連れられてマウントクックの飛行場に到着した。遊覧飛行の受け付けは飛行場に隣接していて、セスナは滑走路とチェ-ンで隔てられた敷地に停まっていた。
 母達に見送られて、わたしたちは空へ!

 
セスナはタスマン氷河の上に滑り降りた。
 わたしたちは、氷河を踏み締め、ひとしきり冷気を楽しんだ。Kさんからは、氷河に降りているのは数分間、と聞かされていたが、パイロッットも急かないのでわたしたちは、他のセスナが車輪の代わりにスキ-板を出して着陸する様を眺めてはしゃぎ、写真も撮った。

 帰路、飛行場が近付くと、(ロトルア行きの)飛行機のタラップ近くでこちらを見上げている母と叔母の姿が見えた。
 「あ! また、飛行機に乗るんだった!」
 「楽しくて、忘れてたね。」
 機上でわたしたちは呑気な会話をかわしたが、地上が近くなるにつれて
出発時間が迫っていそうな様子に気付いた。 
  あとで知ったが、実際に出発時間を延ばしてもらっていたのだ。Kさんにお任せ、で来ていたわたしたちは誰も何時の飛行機に乗るのか気にしていなかったので、通常よりはかなり長く遊んだらしい。Kさんは、わたしたちが予定時間を過ぎても戻ってこないので、慌てたという。
 Kさんから、わたしたちが出発間近のロトルア行きの飛行機に乗る予定だと聞いた遊覧飛行の地上スタッフは、びっくりしたという。(無茶なスケジュールを...と呆れたのかもしれない。)
 帰路、パイロットは地上と何か話していたが、はやく、はやく、と急かされていたらしい。
 
 滑走路を隔てていたチェ-ンは外されていて、Kさんがそこに立っていた。セスナのドアが開けられると、「こっちでぇ-す!」とKさんは叫んだ。他の人たちは既に乗っていらしく、姿は見えない。母はわたしの名前を呼びながら、手招きして、飛行機の中に消えた。
 音が溢れていた。
 義母とWさんたちは「えらいこっちゃ!」と言いながら、走った。

 受け付けの横、出入り口の柵の向こうで、運転手のAさんが大きく手を振っていた。お別れだった。
 バスの乗り降りの度、ひとりひとりに声をかけてくれる人だった。そして、かなり頻繁に運転席から降りて、わたしたちの乗り降りに大きな手を添えてくれた気配りの人だった。

 お別れを言う為に、わたしはAさんの方に全速力で走った。
 走りながら、前夜、義母から預かった100ドルのチップを思い出した。
 義母と母と叔母とわたしの、「ありがとう」という気持ちを伝えて、わたしがAさんに渡す予定だったものだ。
 抱き合って別れを惜しんだのは、一瞬だった。Aさんの手の中に100ドル札を押し付けて、今度は飛行機に向かって走った。義母はタラップを上っていた。恐ろしい事に、プロペラが回り始めていた。振り向くと、Aさんはまだ頭上高く上げた手を振っていた。わたしは、Kissを投げた。

 

 Kさんと一緒に機内に入ると、(義母とWさんがゴソゴソやってたが)中では、皆整然と席について、離陸準備が完了していた。
 母の隣に座るなり、まだ、息が整わない内に飛行機は動き出した。
 「あんたたちがあんまり遅いから、」母は言った。
「そんな時間ないと思って、Kさんに頼んでAさんにチップ、ママが渡しといたのに.....。100ドル....。」
 わたしは、絶句した。
 Aさんが、200ドルのチップをどう解釈したかは、分からない。       
            
                    改稿日 01/09/21 
 
 

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