送料はあてにならない
         
                イギリス、ロンドン

 冬のロンドンは午後3時を過ぎると、薄暗くなりはじめる。

 夏に行った友人が「夜の10時頃まで明るくってねぇ。特した気分!」と言うのを聞くと、「損した気分」になってくる。とはいえ、主人が、 10日あまりの休暇を確保しようと思えば、やはり、年末年始に行き着いてしまう。
 「今度は、気候のいい時に来たいね。」と言いつつ、2度目のロンドンも1月だった。冬のバ-ゲンの時期である。
 事前にバ-バリ-の通販部門から、セ-ルカタログが送られてきていた。
 コ-トを買い替えるには、丁度いい時期だった。

 ヘイマ-ケットの店の1階には値引きされた商品が並べられていた。コ-トは地下にある。下りて行って「綿100パ-セントのステンカラ-のコ-トを。」という希望を告げると、マイメジャ-を持ったスタッフが主人のサイズをテキパキと測り、コ-トをひとつ持って来た。袖の長さ(直しの必要のないモノに出会えるとは期待していなかった。カタログでコ-トの注文をしなかったのはサイズが不安だったからだ。)以外はピッタリだった。値引き商品であった。
 余談だが、わたしのサイズは品切れだった。
 値引き対象外のものならある、といわれて見ると、同じ商品に見えた。違いはどこか、聞くと、値段だと言う答え! 同じ商品だが、各サイズ数着を値引き対象にしているらしい。主人のは「(サイズが)残っていてよかったね。」と言われた。定価で買うのも、この時期はしゃくなので、わたしは、1階にあったフ-ド付きのコ-トを選んだ。
 袖の直しが済んでから、セ-タ-やマウラ-なども合わせて、送ってもらう事になった。UK外への発送ということで、VATもその場で値引きされる。
 送料はいくらになるんだろう、考える様子なので 、わたしは、持っていた通販カタログのオ-ダ-フォ-ムを見せた。
 500ポンド以上は保険付きで27.5ポンドだ。
 「店から送る時も、それでいいんかなあ?」
 横で主人が言った。大量に発送物を扱う通販部門の送料は特別設定の可能性が高いと.....。かもしれないが、店のスタッフが皆して納得していたので、いいことにした。
  追加料金の請求もなかった。

 翌日、ロ-ラアシュレイの店を覗いた。
 ホテルから、ここのポストサ-ビスに電話をして、欲しいと思う生地の注文は済ませていたが、店頭には、少々難ありのお買得品が並ぶことがある。
  店員さんは、人の良さそうなおばちゃんだった。わたしは、ポストサ-ビスと同様に40ポンドで日本への発送が可能かと聞いた。可能だという返事なので、商品を見て回った。
 いわゆる2級品 に好きな柄はなかったが、30パ-セント引きのコ-ナ-に、
飛びつきたくなる柄を見つけた。(キズもの、ではなくて、今期で打ち切り、というような類いのものだ。)残りメ-トル数は少なかったが、おばちゃんはどこかに電話をして、在庫の確認をしてくれた。わたしは、2種類、16メ-トルを注文し、もうひと柄 、10メ-トルをどうしようか悩んでいた。
 すると、おばちゃんが言った。
 「そんなにたくさんだと、40ポンドじゃ、無理かもしれないワ。
 「エ-?」(でも、ポストサ-ビスには、もっと頼んだけど、40ポンドだったヨ?)
 「だから、店と通販は違うんだって。」と、主人は日本語。

 そのへんの事情に詳しいスタッフが昼過ぎに来ると言うが、そこまでは
待っていられない。
 「16メ-トル なら、40ポンドで大丈夫?
 おばちゃんは自信に満ちて頷いたが、もうひとりのスタッフが、「でもこの生地、重いわよ。」と口を挟んできた。
 「これはいいのよ。大丈夫なのよ。
 「16メ-トルは、重いと思うわ。
 「重くっても、16メ-トルはいいのよ。あと、10追加したら、送料がいくらか、ってのを知りたいのよ。
 「重さを計ってからじゃなきゃ...
 なんだか、ややこしいことになりそうなので、わたしは、「16メ-トルだけでいい。」と言った。「あとは、次に来た時にする。」と...。おばちゃんは疑わしい目つきでこっちを見た。
 「本当に? いらないの?
 「今回はこれだけにしとくわ。その内、また、機会があるだろうから。
 「本当に?ほんっとに?
 執拗な追求に負けずに、わたしは頷いた。注文用紙に住所やカ-ドの詳細を書いて渡し、おばちゃんは、カ-ドに 自分の名前と商品の30パ-セント値引き後の価格と、それから、 送料40ポンドと書いてくれた。
 請求は発送後、VATはク-ポンで返金される。メ-ルオ-ダ-と同じ手順だった。

 帰国後、商品はすぐに届いた。
 おばちゃんからの手紙も届いた。それは、とても、とても重たかったので、送料が82ポンドかかってしまったことを知らせる内容 だった。
 話が、違わない? と一応言う為に電話をした。
 おばちゃんは悪びれることなく、「ものすっごく重たかったのよ。」と言って、「でも、大丈夫」と続けた。
VATの返金があるから、それで、カバ-できるワ。

 言うまでもないことだが、送料が40ポンドでも82ポンドでも返金の金額はかわらなかった。

                                             
リストに戻る